日本人看護師の転職理由。海外から見たその異常性とは?

今回のご相談

Y.Iさん 25歳女性
看護師3年目

転職を考えています。
転職の理由はネガティブなものです。
師長とうまくいかず、シフトにも不満があります。

でもこんな理由で転職していいのでしょうか?

できれば転職したいですが、先輩に相談したこところ「逃げたら逃げ癖が付くだけ、次も同じだよ」と言われ、かなり悩んでいます。
どうしたらいいと思いますか?

回答

山本さん(30代・女性・主任)
看護キャリアの第一人者。転職事情に強い。
臨床現場に立ちつつも、採用業務やマネジメントの仕事もこなす。

「こんな理由で転職して大丈夫かな…?」

答えは難しいですよね。

しかしながら、私が同じ立場であれば「転職する」を選びます。
たしかに私も、いつもネガティブな理由で転職しています(汗)

でもこの悩みは、仕事を神格化しすぎている日本人特有の考え方らしいのです。
海外では「仕事はあくまでも生活の為、自分の幸せのために働く」と考える国がほとんど。

そんな海外の人達を見ていると、ある人は平穏な日常を送り、ある人はのんびり楽しそうに、ある人は自分に嘘をつかずストレスなく生活しています。

そんな彼女らの姿を見るたびに、私は羨ましくもあり、自分の人生と比較して、落ち込んでしまうのです。
幸せそうな人たちはとてもまぶしい。

そんな世界の価値観とは?↓

世界の転職理由

昨年、カナダ人の親友が転職しました。

彼女とは、インターナショナルスクールからの仲で、薬剤師として製薬会社、治験、薬局チェーンを渡り歩き、次はなんと不動産デペロッパーという全くの異業種に転職したそうです。
(ちなみに私は、中学で色々あって不登校となりインターナショナルスクールに通っていたため海外の友人のほうが多い)

彼女の年齢は37歳。
40歳を目前にして、かなり大胆なキャリアチェンジだとは思ったのですが、当の本人は全くためらった様子もありません。

むしろ欧米の方々にとっての転職は、日本のようなネガティブ意識がなく、むしろより良い人生の為のステップアップという意味合いが強いのです。

海外では、年功序列も終身雇用もないため、勤め先が守ってくれることもなく、人生は自分自身で守るしかありません。
職場と合わなかったり、仕事が向いていなかったり、待遇が悪ければ、容赦なく転職していくのです。
友人曰く「薬を見るのにも飽きたし、休みも取れなかったから、一度やってみたかった不動産業界に転職した」と。

保守的だと言われているイギリスでも、職場に居心地の悪さを感じれば、日本のような極端な我慢はしません。
イギリスの放射線技師の友人は、べらぼうな忙しさの割に給料が少ないと退職し、今はホスピス向けのシステム開発をしています。

自由奔放なフランスの方々は、20代のうちに転職を何度も経験するそうです。
看護師をしているフランスの友人は、28歳までに5回も転職しています。
彼女曰く「いろんな会社を見て、自分に向いている職場が理解できた。ようやく一生働ける職場を見つけた」と。その職場は11年も続いているのです。

そんな彼女らに日本の転職事情を話すと、かなり驚かれます↓

海外から見た日本の異常性

実は私、これまでに3回転職をしています。
初めての転職は、看護師になってちょうど1年が経った頃。

わたし「師長。実は退職を考えています」
師長 「あなたね、石の上にも3年というじゃない。あなたまだ1年でしょ、もう少し我慢できないの?」
わたし「いろいろ考えましたが、私には向いていないと分かりました」
師長 「向いてないって、たった1年でしょ?」
わたし「はい。この先何年も務めるのは難しいと感じました」
自分 「あなたね。そんな考えだと、他で通用しないよ!」

よく言われる「石の上に3年」は、私も確かにその通りだと思います。
長く働くことで、学ぶことも多いものです。

しかし、必ずしもそうとは限りません。

「適度なストレスは、人のパフォーマンスを最大化させる」と言われています。
難しすぎず、簡単すぎず、ちょっと上の難易度という意味です。

しかし、重すぎるストレスや、黙々とこなすだけの単調な仕事では、人は何も考えなくなります(学習性の無力感)

何も考えなければ、成長は止まります。
同年代の看護師と比べ、スキルに大きな差が出てしまいます。
新卒からの数年で身に付けた技能や看護観は、固定化されやすく、後からは取り返しづらいでしょう。

スキルが無ければ、口答えせず「はい」と答えだけのイエスマンになるしかありません。

とは言っても管理職から見れば、何でも言うことを聞くイエスマンの方が都合がよいものです。そのため意図的に「石の上にも3年」とムチャを言う人もいるくらいです。
もちろん全てがそうとは限りませんが、医療現場の我慢とは、大半がこういった「個人の犠牲」です。

さて。
それでも日本では「我慢が美徳」とされています。
そのためなのか、転職といえば「我慢が足りない」「嫌なことから逃げている」「適応力がない」と、人格否定されることもあり、嫌なイメージばかり。
とあるワイドショーでは「なぜ今の若者はすぐに辞めるのか!?」といったテーマで、コメンテーターが「ゆとり教育が歪んだ人格を作った」とムチャなことを言っていました。

これらを冒頭のカナダ人の友人に話したところ「クレイジー…」と絶句。

彼女らにとっての仕事とは「お金を稼ぐ手段」という意味合いが強いのです。
もちろん仕事に対して「やりがい」や「生きがい」を求めることもあるが、幸せな生活という前提があってこそ。
不幸になってまで働くのは、全く理解できないそうです。

実際に、海外のSNSで日本の働き方が話題になっていたのですが、そこでのコメントは散々なものでした。

  • 現代の切腹制度だ(イタリア)
  • 日本では奴隷が認められているようだ(フランス)
  • アメリカなら即訴えられる(アメリカ)
  • なぜ専門家に相談しないの?(韓国)
  • 日本は資本主義の国だと思っていたが(ロシア)
  • 個人を犠牲にして成り立っている国だね(カナダ)
  • 働きたくない国No1(オーストラリア)
  • 自分の娘がこんな企業で働いてたら、殴ってでも辞めさせる(シンガポール)
  • その他多数

このように日本の職場は、世界から見るとかなり異常な環境です。
私たち日本人は、この日本式の価値観に慣れすぎていて、こうした異常に気が付きにくいのです。

ただ少数ですが、肯定的なコメントもありました。

組織に忠誠を誓うのは自然なこと(ミャンマー)
時代遅れになった日本だが、その奉仕的な制度が日本を経済大国にした(中国)

↓そこで次は日本の看護師の価値観を見ていきましょう。

日本の看護師の転職理由

  • 出産・育児:22.1%
  • 結婚:17.7%
  • 他施設への興味:15.1%
  • 人間関係:12.8%
  • 残業:10.5%
  • 通勤:10.4%
  • 休み:10.3%
  • 夜勤:9.7%
  • 責任の重さ:9.6%
  • 体調不良:8.6%
  • 給与:8.0%
  • 家庭問題:6.9%
  • 進学:6.3%
  • キャリアアップ:4.4%
  • 看護以外への興味:4.1%
  • 教育体制:3.7%
  • 看護に向いてない:1.0%
  • 定年退職:0.4%

日本の看護師の退職は、その大半が「結婚、出産、育児」です。

寿退職が美しいという風習があり、一般的な円満退職といえば、やはり結婚系となるのです。
「大変だった。でも頑張りぬいた」というのが美徳であり、達成感も得られることから、寿退職が一種の憧れにもなっていますよね。

しかしその一方、不満での退職はタブーに近くなっています。
「人間関係、残業、休み、給料」といった不満での退職は、少数派です。
実際、不満を伝えて辞めるのは、円満退職がかなり難しくなります。

日本で退職にするには「ちゃんとした理由」が必要なのです。
そのため「結婚するかも」「子育てが忙しくなるかも」「旦那が転勤するかも」と、結婚系の理由を創作するケースもありますよね。
また「親の介護」「夢だった診療科」「キャリアアップ」など、ポジティブな理由を無理やり作るなんてことも。

このように「我慢が美徳、不満はタブー」という日本式の文化は、日本の看護業界に色濃く出ています。

↓では日本と海外、なぜここまで違うのでしょうか?

海外との最大の違い

日本と海外、一番の違いはどこにあるのでしょうか?

それは「目的の置き場」です。

日本は「仕事が」「職場が」「キャリアが」と、仕事自体を目的に働きます。
海外は「自分にとって」「家族にとって」「未来のために」と、自分の人生を目的に働きます。

もちろん日本人であっても「私は自分の人生のために働いている」という人は多いでしょう。
ただその比重を考えると、どうしても仕事を中心に人生を考えてしまうのです。
だから日本では、転職に慎重になりすぎて、否定的になりやすい。

逆に海外では、転職に対して合理的であり、人生に合わせてパッと乗り換えていきます。
まずは生活が一番であり、それを支えるために仕事があるのです。

しかし2000年以降「日本人ナースの価値観は大きく変化した」と言われています↓

今の日本の価値観

「仕事はあくまでの自分のため」

20代30代の若いナースを中心に、こうした欧米型の考え方が広がりつつあります。
この背景には「SNSで世界の価値観に触れている」「自立心の強い人が看護の道に進むようになった」などの影響があると言われています。

仕事よりも生活中心の、自分らしく働ける場所を求めて、積極的に環境を変えていく。
自己犠牲、調和、奉仕といった日本式とは、逆の考え方です。

  • パワハラ気味の師長に見切りをつけ、夢だった小児科病棟に転職した、24歳の看護師。
  • ジャニーズの追っかけのために、土日休みの外来に転職した、36歳の看護師。
  • 連休が取れる病棟に転職し、趣味のダイビング旅行をしている、23歳の看護師。
  • 世界一周の資金を貯めるために、仕事はハードだけど給料が良い職場に転職した、27歳の看護師
  • 一軒家を買い、ローンを10年で全額返済しようと頑張る、32歳のママさん看護師。
  • 派遣でいろんな職場を渡り歩き、そのスキルを武器にNGOで働く、29歳の看護師。

幸せの形は人それぞれです。
もちろん上記とは逆に、仕事に人生を捧げる幸せもあります。

  • 病院やみんなの為、一度も不満を言ったことがない、47歳の看護師
  • どんなに辛くても、40年勤め上げるのが勲章、55歳の看護師
  • 上司の命令は絶対、39歳の看護師
  • 自分がしんどい時は、職場もしんどい時、だから耐え抜く、50歳看護師

こうした価値観は、バブル世代(40代~60代)の方々にその傾向があると言われています。
「今の若い子は我慢が足りない」「自己中」「最低でも3年」と批判するのもこの世代と言われています。

しかし幸せの定義は人それぞれです。
何を重視し、どう考え、どう行動するかも人それぞれなのです。

現実として、自分中心の考え方は、日本人ナースの中でも確実に増えています。

↓では私たち個人は、転職とどう向き合えばよいのでしょうか?

「転職しても大丈夫?」の答え

こんな理由で転職して大丈夫かな?
逃げているだけかも…
次も同じだったら…

冒頭、この悩み。
私であれば迷わず「転職する」を選びます。

しかし、まだ迷っているのであれば「今の職場でガンバル」のもアリです。

世の中には、2種類の職場しかありません。

  • 自分に合った職場
  • 合わない職場

これは人によって相対的なものであり、同じ職場でも個人差があります。

自分に合わない職場は、往々にして自分の長所が生かせず、欠点ばかり強調されてしまい、働きずらです。
こういった環境で幸せに生きるのは、簡単ではありません。

だからこそ人は、自分に合った環境に移るのです。
これは生物として自然な行動原則です。
人類が生存競争に勝ち抜いてこられたのは、この適材適所の能力があったからこそ。

しかし、もしその能力がマヒするくらい日本式に染まっているなら、それはそのまま耐え続けた方が楽だと思うのです。
人間誰しも、支配され、命令され、自分で考えない方が楽に生きられますから。
これは別に皮肉でもなんでもありません。

でも逆に「行動できる人」は、より良い人生にするため、適材適所に移るのが幸せなんだと思うのです。

その際、転職理由に良い悪いはありません。
ネガティブな理由であろうとも、働くのが辛いのであれば、自分を活かせる職場を探すべきです。

もちろん面接や上司に退職理由を伝えるときは「結婚や進学、夢、キャリアアップ」などポジティブな理由が無難となりますが、それはまた別の話。

しかしここで問題になるのは「どうやって自分に合う職場を見つけるのか?」という点です↓

転職の注意点

自分に合った職場を見つけるのは難しいものです。
合う合わないは、実際に働いてみないと、分からないことの方が多いですから。

しかしだからこそ、より多くの職場を経験しておきましょう。
経験が増えるほど、視野は広がり、より遠くが見えるようになります。

  • 世の中の良い病院、悪い病院
  • 職場の見極め方法
  • 自分の許容範囲
  • 自分はどんな仕事が好きで、何が嫌いか
  • 本当は何がしたくて、何がしたないか

これらは一つの職場では、なかなか見えてきません。
いくつかの職場を経験したからこそ、分かるのです。

こうした転職知識は、社会人としての基礎スキルです。
これは若いうちに身に付けておくと、後々断然有利になります。
年を取ってからの転職は「全然ついていけない…、惨めすぎる…」というケースもよく聞きます。

また外の世界を知らないがゆえに、小さな世界で何十年も苦しむ人も多いです。

実はこれ、人間に限りません。
魚は「広い海では仲良く泳ぐのに、小さな水槽に入れるとイジメが始まる」そうです。
しかも水槽からイジメられた魚を出すと別の魚がイジメられ、イジメた魚を出すと別の魚がイジメだすのだとか。

狭い世界とは、生物共通なんですね。
広い海に出て、自分に合った環境を見つけ、ストレスなく生きる。
これが多くの人にとっての幸せなのかも、と思うのです。

さて。
肝心の転職知識を身に付けるのは簡単です。
これは転職に限らずどんなことにも言えるのだけれども、とりあえずやってみれば、自然と身についていくからです。

とは言っても難しいことではありません。

  • どんな求人があるのかを眺める
  • 病院ホームページで募集要項を見る
  • 転職エージェントに会って自分の適性を診断してもらう

とにかく行動してみると、頭の中で情報が整理されていき、それが知識となってくれます。

特に転職経験の少ない若い人には、転職のプロである、転職エージェントを利用するのが良いでしょう。
彼らは多くの情報を持っているからです。

  • 転職の失敗・成功データ
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  • 看護師のスキル評価
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コチラをご参考に↓

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