看護師に向いてない?「無能」と言われた時の話

「あなたは看護師に向いてない」

ナース向けの掲示板で、こんな悩みを目にした。
その方は、上司からそう言われたらしく、酷く苦しんでいるようだった。

心が痛くなった。

「あなたほどの無能はいない」

私もこう言われたことがある。
当時の私は、仕事に絶望し、人生を悲観し、無力な自分を呪ったのをいまだに覚えている。
たぶんこの方も、同じように苦しんでいるんじゃないだろうか。

でも結論から言えば、私は無能じゃなかった。
無能なのはもっともっと別なものだった。

私がこう思うようになった経緯を書いてみる。
「看護師に向いてない」と言われて苦しんでいる方に届いてくれれば。

無能と言われた職場

9年前。
看護師1年目の頃。

大きな中核病院に入職した。
配属されたのは急性期病棟だった。

でも入職してすぐに辞めたいくらい辛くなった。

終わらない仕事と看護レポート。
主任からの罵声。
この頃は日勤だけだったが、8時から23時ごろまで1日15時間以上拘束され、心も体もキツかった。

その一方で、同期の新人が親切なプリセプターと一緒に、笑顔で楽しそうに働いているのをよく目にした。
死にたかった。

職場は強烈な上下関係で成り立っていた。
一部の先輩たちが幅を利かせ、その周辺に他の看護師が集まるような。
巨大な病院の典型かもしれない。

でも私はその輪に入れなかった。
何をするのも怖くて、何も聞けず、仲の良い同僚もいなくて、いつも孤立して一人だった。

同期が主任や先輩に可愛がられているのが、うらまやましくもあり、辛かった。
私だけが取り残された。

それでも1年間頑張り続けた。

でも3月の人事評価で「あなたほどの無能はいない」と言われて心が折れた。
電車に乗れなくなり、そのまま退職。

私は無能だった。

2つ目の職場

職場を辞め、2か月寝込んだ。
「無能」という強烈な言葉が忘れられず、働くのが怖かった。

それでも「働かなきゃ」という思いで、人材紹介の方に病院を紹介してもらった。

前回とは全く違う、小さな単科病院だった。
医師2人、看護師9人。

この頃はまだ働くのが怖かった気がする。
でも面接のときに師長が「あなたが必要」と言ってくれ、その気になれた。

師長は面倒見の良い人だった。
プリセプターとしても丁寧に教えてくれた。

仕事が楽しいと思えた。

未経験の診療科だったが、看護師としてやっていける自信がちょっとだけ付いた。

11月のある夜。
予防接種でバタバタしていた時期のこと。
その日は60人近くの注射をこなし、ちょっとしたやり切った感の中、後片付けをしていた。
一緒に片付けていた師長と「この病院に来て半年経ちました~」なんて話していたら、「あなたを採用してやっぱり正解だった」と言ってもらえた。

嬉しかった。
期待に応えなきゃと思った。

3つ目の職場

2つ目の職場に転職して3年たった頃。
師長が定年退職した。
ちょうど院長も引退し、息子さんが医院を継ぐことになっていた。

私はこのタイミングで退職することにした。
スタッフが入れ替わり、別の病院になってしまうような寂しさもあった。
でもそれ以上に看護師としての自分を高めたいという前向きな思いがあった。

1か月ほどの転職活動の末、職場は有名な私大病院に決まった。

でもこの職場は今でも思い出すくらい辛い経験になった。

ここはとにかく忙しかった。
患者の重症度が高いこともあったが、看護師の数が圧倒的に不足していた。
ナースコールが処理できず、そのクレーム対応にも時間を取られるような悪循環な環境だった。

その影響なのか、ここの看護師はみんな他人のような感じだった。
最初に働いた病院は、良くも悪くも「女の結束」を絵に描いたような場所だったが、ここは「個人営業」。
みんな一人一人が無関心で、自分の仕事以上のことはしない。

そんな職場で私はミスを連発してしまっていた。
「新人以下」「夜勤はペアにしないでほしい」「人事は看護師なら誰でもいいと思っているのか」と、聞こえるような大声で悪口を言っている人もいた。
ますます萎縮してしまった。
最低限のコミュニケーションしか取れず、1日無言な日もあった。

相談できるような同僚もおらず、ひっそりと退職することにした。

私は無能だった。

4つ目の職場

職場を辞めて、また寝込むんじゃないかと自分自身で思っていた。
でも意外とダメージも少なく、退職後すぐに転職活動を始めていた。
(無能扱いは辛いが、人間慣れる生き物らしい)

人材会社の方にまた連絡した。
2回目の転職でお世話になった人。

「そんな災難があったんですか」
「また頑張りましょう」
なんて言ってくれてチョット癒された。

次は地域密着型の病院。

変わった院長が経営していた。
その院長は、ボランティアとか助け合いが大好きな人で、面接のときも熱く語っていた。

入職してみるとそのボランティア精神は予想以上で、経済的に困っている人にお金を貸したり、仕事を紹介したり、自分の家に住まわせたり、それでも足りなくなくて病院に住まわせるような人だった。何か見返りを求めているわけではなく「困っているから助ける」という単純な動機なようだった。

凄い人だと思った。
私にはとてもできないと思った。

それを躊躇なくやる姿がカッコよかった。

でも院長は、誰でも構わず助けるものだから、そのあおりを受ける一部の病院スタッフからは嫌われていた。
ミーテイングでよく怒られていた。
「また連れてきて!」
「またお金を貸して!」
「だからバカだって言われるんですよ!」

看護師が医師に面と向かって悪口を言っているのは衝撃的だった。
ましてや院長に。
でもそれは「この人なら本音を言っても大丈夫」という信頼関係があるからこそ、言えるものだとわかってきた。

実際に一番文句を言っていた師長は、とても親切な人だった。
さらに言えば院内のスタッフ全員が親切だった。

たぶん院長に影響を受けているんだと思う。

そんな職場だったからこそ、私はまた看護を好きになれた。
いろんな仕事を任せてもらえるようになった。
人生が楽しいと思えた。

無能になる理由

「あなたは看護師に向いてない」

確かに向いてないのかもしれない。

しかし向いてないのは「看護師」ではなく「職場」だった。
具体的には「職場のコミュニケーションが合わない」のである。

これに思い当たる人は多いんじゃないだろうか?

何となく居心地が悪い、何となく話が続かない、何となく興味が持てない、何となく打ち解けられない、何となく好きになれない、何となく合わない。
全てコミュニケーションの問題。

私もそうだった。
コミュニケーションが難しい職場は、孤立してしまい、何をするにも萎縮してしまっていた。
コミュニケーションが上手にできる職場は、仕事が楽しく、自分の力も発揮できる。

無能だと言われても、看護師を辞めてはいけない。
職場を変えればいいだけの話。

不幸中の幸いなのか、看護師はどこに行っても仕事がある。

もちろん職場に馴染めるのであれば、それがベストだと思う。
誰も傷つかないし、誰も損しないし、誰にも迷惑をかけなくていい。

でもずっと続けていける病院なのか?

無理をしても結局は長く続かない。
合わないものは合わない。
人間である以上、相性の問題は避けようがない。

看護師に向いてないと思っている人へ

無能な人間なんていない。
でも人間を無能にしてしまう職場はある。

人は環境次第で、無能になるし、有能にもなれる。

もしもあなたが「看護師に向いてない」なんて言われたのなら、その職場は辞めたほうがいい。

あなたを無能にしてしまう職場だから。

大丈夫。
あなたを必要としてくれる職場はきっとある。

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