看護師から治験コーディネーターに転職したけど質問ある?

U.Mさん 30代(女性)
東京都在住
看護師
病棟勤務後、治験コーディネーターの道に

私は治験コーディネーターとして6年働きました。

そのため看護師仲間から

治験コーディネーターって実際どうなの?
転職先としてアリなの?
ノルマがきついって本当?

っていう質問をよく受けます。

今回は治験コーディネーターの立場から、治験業界について語ってみたいと思います。

治験コーディネーターって何?

治験コーディネーターとは?
治験コーディネーターとは、「薬の治験をしたい製薬会社」と「治験に参加する患者さん」の調整をする職業です。
「臨床試験コーディネーター」「CRC(シーアールシー)」とも呼ばれたりもします。

治験コーディネーターの歴史はまだまだ浅く、日本では1997年頃が発祥と言われています。
1997年といえば、GCPと呼ばれる治験のルールが発令された年です。
それまでも治験のルールはあったのですが拘束力はなく、いわゆるザル法でした。
それが1997年に厳密化しました。
ルールを破れば法律違反になるという厳しい内容です。
これは当時の治験業界を激変させるインパクトを持っていました。

特に影響の大きかったのが「患者さんへの説明と同意の強制」です。
その昔、患者さんへの説明はかなりいい加減でした。
表向きには「詳しく話したらブラセボ効果で実験がうまくいかない」という理由です。
でも「面倒だから・・」というのが本当の理由でした。
何十人、何百人もの患者さん全員に、治験の詳しい内容を説明をして納得してもらい、「副作用が出てもウンヌン・・」という同意を得るというのは、かなり大変な作業ですから。

それが1997年の「キッチリ説明しなさい」という国が定めた新ルールで、適当なことができなくなります。
新しいルールでは、医師が患者さんにキッチリ説明しなければいけません。
でも医師は何かと忙しいですよね。
「こんな面倒な事やってられるか!」「もう治験はやらん!」という医師が続出しました。

その説明の代役として「治験コーディネーター」という職業が生まれたという訳です。
今では患者さんへの説明だけではなく、「薬の治験をしたい製薬会社」と「治験に参加する患者さん」の調整までを行うまでになりました。

治験コーディネーターの就職先はどこ?

治験コーディネーターには主に2つの就職先があります。

・病院
・SMO

治験コーディネーターの就職先は、製薬会社だと思われがちですが間違いです。
病院に雇われるか、SMOに雇われて病院に派遣されるかのどちらかです。

病院に雇われた場合、調剤や看護業務と兼任することがほとんどです。
治験専属の場合は、パートかアルバイト採用です。
治験専属かつ正社員というのは、あまり聞きません。
そもそも病院が治験コーディネーターの求人を出すこと自体が稀です。

そのため治験コーディネーターを目指すなら、SMOに就職するのが一般的です。

SMOって何?

EP綜合本社
(国内最大手SMOのEP綜合本社ビル)

SMOは、治験コーディネーターの派遣サービス会社です。
ほとんどの治験コーディネーターはSMOに属しています。

上場している大きなSMOから、社員数人の小さなSMOまで、全国に100社ほどあります。
有名なのはEP綜合やシミック、アイロムなどでしょうか。
よく目にする治験コーディネーターの求人は、たいていこの辺りの大手です。

SMOって儲かっているの?

微妙なところです。
ここ10年ほど大手各社の売上は横ばい状態です。
ただ治験の件数は増えており、今後も増えていくと予想されています。

しかし症例単価が下がり続けており、売上が増えない原因となっています。
小さなSMOは、ここ数年でかなりの数が倒産したり、大手に吸収されたりしています。

そのためノルマが厳しいSMOもあります。

ノルマって何?

治験のノルマ
治験はビジネスライクな世界です。
「症例数を確保しろ!」と上司からも、製薬会社からもハッパをかけられます。

この症例数がノルマです。
「症例数」とは患者さんの数でもあります。

製薬会社から見れば、「症例数」が一定数確保できなければ、新薬として認可されません。
SMOから見れば、「売上=症例数×単価」なので、少しでも多く症例数を稼いでほしいのです。

患者さんは誰でもいいわけではなく、症例にあった人を探さなければいけません。
これがかなり大変です。
患者さんは、癌や糖尿病といった国民病であれば容易に見つかりますが、難病呼ばれる希少な症例だと本当に大変です。

このような背景から治験コーディネーターは「症例数」を稼げる人ほど優秀だとされています。

ノルマが厳しいSMOはどこ?

ノルマがキツイのは中小SMOです。
どこのSMOにもノルマはありますが、資金に余裕のある大手ならまだマシです。

中小SMOはブラック企業なの?

実際ブラックは多いです。
そういった話もよく聞きます。

スタッフが少ない零細SMOは、全国の病院を飛び回らなければいけないため、出張や残業が多く、ブラックになりやすい環境だからです。
資料作りも、自宅に持ち帰ってやるのが当たり前な世界です。

そのため中小SMOは、病棟の看護師以上に人の入退職が激しく、平均勤続年数は1年くらいだと言われています。

酷いSMOになると、給料が出来高払い制だったという事例もあります。

治験コーディネーターの給料ってどのくらい?

治験コーディネーターの給料
月収30万円前後です。
ボーナスも2~4か月分くらいは出ます。
売上が横ばいとはいっても、医療業界なので安定はしているようです。

ただ大手と零細では、給料面でも大きな差があります。
大手SMOほど高給となり、零細SMOほど低給料な傾向があります。

また登録した症例数に応じて、ボーナスが増えたり、昇給したりといったSMOもあります。

症例数ってどうやって稼ぐの?

症例数を稼ぐには、患者さんを沢山集めるのがポイントです。

患者さんを集めるには、主に3つの方法があります。
・過去の被験者(患者さん)
・病院からの紹介
・一般公募

一番簡単に集められるのが、過去の被験者です。
被験者の方は、「アルバイト感覚」「新薬を試したい」「病気で苦しむ人のために」など動機は様々ですが、リピーターが多くいます。
症例によっては、過去の被験者に声をかけるだけで、予定の症例数を確保できたりします。

その次に集めやすいのが、病院からの紹介です。
希少な難病の場合、ここが重要です。
難病患者さんは大学病院に集まります。
そのためいかにして大学病院とのコネクションを太くするかが重要になります。
大きなSMOには、大学ごとに営業担当者がいるくらいです。
大金が動くと言われていますが真相は・・・。

また最近では一般公募で集めることも多くなりました。
一般公募は、一昔前までアルバイト雑誌でしたが、今ではネットの被験者募集サイトが主流です。
ネットなら、全国どこででも、幅広い症例が確保でき、なおかつ低コストだからです。

患者さん集めは「ノルマ=症例数=被験者数」であるため、治験コーディネーターの影のメイン業務とも言えます。

治験コーディネーターってどんな仕事?

治験コーディネーターの仕事は「デスクワーク、患者さん対応、カンファレンス」の3つが中心です。

デスクワークはかなりの量になります。
仕事の7割くらいはデスクワークです。
ミーティングの資料作成、治験計画書、病院スタッフ向けの資料作成、医師に代わりに資料作成、症例報告書、データ入力などなど。
資料作成とデータ入力がほとんどです。

患者さん対応は、病院回りが中心です。
患者さんを集めて、説明して、同意させて、スケジュール組んで、服薬指導して、残薬チェックして、診察に同席して、治験データを回収して。
患者さんの不安を取り除き、ドクターと上手に付き合えるかが重要です。
ドクターは、患者さんを紹介してもらったり、治験中のイレギュラーを監視してもらったり、治験のデータを貰ったり、治験コーディネーターにとって『最強のお客様』です。
ただしドクターは、チョット間違えると『最凶のお客様』にもなります。
多忙でストレスMAXな上に、プライドの高い方が多いですから・・・。
ドクターとの付き合いは、元看護師なら一番の腕の見せ所かもしれません。

カンファレンスは、製薬会社と病院が相手です。
まず治験のスタート前は、新薬やモニタリング方法を知るために、製薬会社が主催するカンファレンスに出席します。

次に「治験を開始しよう!」というキックオフ・カンファレンスに出席します。
キックオフ・カンファレンスは、製薬会社の主催ですが、資料はなぜか治験コーディネーターが作る慣習があります。
司会まで任されることもあります。
出席者は、製薬会社、SMO関係者、ドクター、ナース、薬剤師、治験事務局、どこぞかのお偉いさんなど、結構なメンバーが集まるため、若干緊張します。
ただキックオフ・カンファレンスは、ある種の儀式みたいなもので、治験内容と役割分担をササっと説明して「それではお願いします!」でたいてい終わります。

このように治験コーディネーターの仕事は「デスクワーク、患者さん対応、カンファレンス」の3つが中心です。
「製薬会社と病院の間をコーディネート」する仕事とも言えるでしょう。

初めての治験コーディネーターだけど大丈夫?

大丈夫です(笑)
100%全員未経験からスタートしています。

最初は、先輩の治験コーディネーターの後ろに付いて補助的な役割からです。
一人立ちは、こなせるタスクを徐々に増やし、入社後半年~1年くらいでしょう。
まずは小さな案件で一人立ちという感じです。

このように新人を丁寧に育てるSMOもあります。
ただし一部SMOは、何も知らない新人をイキナリ案件担当にするブラックSMOなので要注意です。

ブラックSMOってどんな感じ?

教育なしで案件に放り込まれる
ノルマがかなり厳しい
新人でもノルマがある
給料が歩合制
毎日残業
週休6日
有害事象が頻発(治験中に起こってはいけない事故)
・・・etc

ふつうの人は1年もたないのがブラックSMOです。

ブラックSMOの見分け方は?

正直、入社してみないと分からないです。
そのため働いている人、また働いていた人に内情を聞いてみましょう。

内情は転職エージェントから聞くのも良いでしょう。
転職エージェントは、転職させた治験コーディネーターから情報を得ているため、新人のトレーニング内容やOJT内容、社風、離職率など、鮮度の良い話を聞けると思います。

治験コーディネーターの離職率ってどのくらい?


SMO会社によってかなり変わってきます。

ホワイトな会社は、離職率が低めです。
新人が10人いたら2人ほどが1年以内に辞めます。
離職率は20%ほどでしょうか。

逆にブラックな会社は、離職率がかなり高いです。
新人が10人いたら5人以上1年以内に辞めます。
離職率は50%を超えているでしょう。

私が知る限りの最速退職は、入社当日のランチ中に消えた元薬剤師の人です。
薬剤師だからという理由で、初日から有害事象(治験中に起こってはいけない事故)の対応に放り込まれたら、たぶん私も辞めます。
5年以上続けている人は、ほとんどいませんでした。
10人に1人というレベルです。

元看護師だけどやっていける?

治験コーディネーターは「元看護師、元薬剤師、元臨床検査技師」というメディカル業界出身者が多いです。

臨床経験者は、治験ノウハウの吸収が速いです。
一般出身者と比べて、医療知識に圧倒的な差があるからです。
例えば「薬の名前と効用(大量)」は、一般出身者だと全く覚えられないと言われていますが、元看護師なら薬と症例をイメージしやすいため学習スピードが数倍違います。

さらに元看護師は、他のメディカル出身者より有利です。
病院のシステムにも詳しく、ドクターや病院スタッフとの連携にも慣れおり、患者さんとのコミュニケーション経験も豊富だからです。
元看護師は、求人に「看護師経験〇年以上のみ」「看護師優遇」「看護師免許を持っていることが望ましい」と書かれるくらい、SMOからも重宝されています。

しかし治験コーディネーターは人によって向き不向きがハッキリします。
治験コーディネーター仕事は、体を動かす看護師とは違い、パソコン操作と人の調整がメインだからです。
転職後に「事務仕事ばっかり」「やりがいがない」「看護師のほうが良かった」と言う人は多いです。

治験コーディネーターの求人はどこで探したらいい?

治験コーディネーターは、転職サイト経由が一般的です。
例えば、看護roo!という転職サイトは、治験コーディネーターに力を入れています。
大手SMOの求人も多く、治験が初めての方にもおすすめです。
ナース向けサイトのため、看護師の資格を持っていると歓迎されます。

参考:看護roo!の公式サイトへ→ https://www.nursejinzaibank.com

他には、医療業界誌のリクルート欄を探してみましょう。
中小SMOの求人をチラホラ見かけます。

最後に注意点として。
治験コーディネーターは専門職のため、一般にはあまり出回っていません。
ハローワークや一般求人誌にも多少はありますが、売れ残り(ブラック)のリスクが高いのでご注意ください。